睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、睡眠中に呼吸が一時的に停止する(無呼吸)、もしくは止まりかける(低呼吸)状態を繰り返す病気のことです。肥満やのど・顎の骨格的な形状などが影響して、のどの空気の通り道が塞がることが主な原因で引き起こされます(後述しますが中枢性無呼吸症候群は例外となります)。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんは日本では推定300万人以上いると考えられており、およそ男女比2~3対1とされています。無呼吸というと男性のイメージが強く男性の方が多いのは事実ですが、一方女性でも男性の半分程度の患者さんが存在するということでもあります。
しかしその中で、CPAPでの治療を受けている患者数は40万人程度にとどまると言われています。最近、ようやく病名を耳にすることも増えてきましたが、病態が十分認識されておらず、症状がある人も未診断であることも多いのがこの病気の特徴です。
中等症以上の睡眠時無呼吸症候群を8年間放置すると死亡率が約37%(8年で100人中37人が死亡するということ)にもなるという報告もあり(He J,et al;CHEST, 94, 9-14, 1998)、軽視してはいけない怖い病気です。
しかしきちんと治療すれば、健常人と生存率はほとんど変わらないと考えられています。
健常人の気道
OSAS患者さんの気道閉塞
睡眠時無呼吸症候群のリスク因子
以下に当てはまる方は睡眠時無呼吸症候群のリスクがあると考えられます。
肥満傾向
肥満の方は正常体重の人と比べて4倍程度、無呼吸になりやすいと言われています。無呼吸は空気の通り道である上気道が狭くなることにより起こりますが、肥満で首回りの皮下脂肪が厚くなると、上気道(のどの上の方の部分)が狭くなり閉塞しやすくやすくなります。なお日本人を含めたアジア人は欧米人と比べて、もともとの骨格が比較的小さいため(特に頭部の前後径が小さいのが特徴です)、軽度の肥満でも上気道がふさがりやすく無呼吸を合併しやすいと言われています
首が太い
男性では43cm以上、女性では41cm以上の場合、高リスク群と考えられます。
中年以降の方
年齢とともに舌を支える筋力(喉や首回りについている)が低下し、舌がのどに落ち込みやすくなります。
男性
男性は女性の2~3倍無呼吸を合併しやすいと言われています。男性が無呼吸を合併しやすいのは、男性の方が上半身に脂肪がつきやすいためなどの理由によります。
閉経後の女性
女性では閉経後に無呼吸が増加すると言われています。閉経前は女性ホルモンの一種であるプロゲステロンによって上気道開大筋と言われる、のど周りの筋肉の活動が高められるため、男性に比べて無呼吸を合併しにくいですが、閉経後には閉経前の約3倍無呼吸を合併しやすくなると言われています。なお女性の無呼吸は男性と異なり日中の眠気やいびきを伴わない場合も多く、いびきにばかり注目していると見過ごされやすいため注意が必要です。
アルコールをよく飲む
アルコールには筋肉の緊張を緩和させる作用があります。そのため、アルコールを摂取すると、舌やあごの筋肉の緊張がゆるみ、気道を圧迫します。また、舌や周りの組織がのどに落ち込みやすくなります。さらに鼻粘膜を充血させる作用もあるため、鼻からの空気の通りも悪くなるのです。
睡眠薬を服用している
アルコールと同様に筋肉が弛緩し、舌がのどに沈下して閉塞しやすくなります。
タバコを吸う
喫煙はのどの粘膜に炎症やむくみを引き起こし、無呼吸を3〜4倍程度増加させると言われています。
もともと鼻が詰まりやすい
無呼吸は主にはのどの部分で気流が塞がることが原因ですが、鼻が詰まると鼻からの気流が減ってのどを広げる圧力が弱まり、無呼吸を合併しやすくなります(ただし鼻の奥自体が詰まって無呼吸になるというのは誤った理解です)。
家族(血縁者)に無呼吸の方がいる
骨格は遺伝的に似る傾向を示すため、ご両親やご兄弟に閉塞性無呼吸症候群の方がいらっしゃる場合、ご本人もややリスクは高くなります。
舌が大きい
舌が大きいと、舌がのどに沈下した時に閉塞しやすいと言えます。大きく口を開け喉の奥が見えなければ無呼吸になりやすいと言うことができます。
睡眠時無呼吸症候群を疑う症状
睡眠時無呼吸症候群の診断は、まず問診で自覚症状や日頃の睡眠状況をお聞きすることから始まります。下記の症状のうちいずれかがあれば、睡眠時無呼吸症候群の可能性を考え受診することをお勧めします。
- 家族や同居人から、いびきがうるさいと指摘される。
- 家族や同居人から、寝ている途中で呼吸が止まっていると指摘される。
- 日中の眠気やだるさを覚える。
- 朝起きると体が重い。
- 起床時に頭痛や、頭が重い感じがする。
- 熟睡感が無い。
- ED(勃起不全)や性的欲求の減退を認める。
- 夜中に何回もトイレに行く。
- 集中力や記憶力が低下しているように感じる。
- 不眠である。
- ドライマウスを認める。
なお高齢者の方の場合には、以下のような症状をご自身では気づかずに、周りの方から指摘されることがきっかけで無呼吸の合併が判明することもあります(もちろん他に原因があることもあるため、しっかりとした見極めが重要です)。
- 性格の変化
- 活動性、認知機能の低下
- 抑うつ傾向
無呼吸が疑われる方は以下のような検査を受けて頂きます。
睡眠時無呼吸症候群の検査①(簡易検査)
上記のような症状に心当たりのある患者様には、第一段階として睡眠時無呼吸症候群の「簡易検査」を行うことになります。当院よりお貸し出しした専用機器を装着してご自宅で一晩検査を行っていただき、その後当院でデータを解析いたします。
検査方法としては、鎖骨と鎖骨の間のくぼみにマイク式のセンサーを装着していびきと無呼吸の有無を感知し、また指に血中酸素濃度を調べるセンサーを取り付けて無呼吸によって酸欠状態になっていないかと調べます。一晩ご就寝いただき、1時間当たりに10秒以上の無呼吸・低呼吸状態が何回生じるか、また同時に血中酸素濃度の低下が起こっているかどうかを調べることになります。これは睡眠時無呼吸症候群が存在するかしないかを判断するためのスクリーニング(ふるい分け)検査という位置づけになり、中等症以上の無呼吸が疑われた場合は、次の精密検査に進むことになります。一方軽症と判断された場合には、睡眠に関する様々なアドバイスをさせて頂いたうえで、経過観察とさせて頂きます(例えば横向きでお休み頂くだけで無呼吸が低減される場合もあります)。
当院でお貸出ししている簡易検査機器
*当院で採用している検査機器は、従来の検査機器よりも装着による違和感が少ないため、より普段の睡眠に近い状態で検査を受けられるのが特徴です。
睡眠時無呼吸症候群の検査②(精密検査)
簡易検査で中等症以上の無呼吸の存在が認められた場合には、治療方針を決定するために精密検査を受けていただく必要があります。
精密検査では、睡眠中に呼吸・呼吸努力・いびき・動脈血酸素飽和度・脈拍数・体位・体動・脳波を測定し、睡眠を専門とする臨床検査技師が睡眠中の状況をコンピューターで解析します。
この検査では簡易検査よりも詳細なデータが得られるため、その解析結果を元に、医師は治療が必要か否かを判断し、患者さま御本人を相談した上で治療方針を決定します。なお、従来精密検査は入院で行うことが一般的ですが、当院では検査機器をご自宅にお送りさせていただき、ご自宅で受けていただくことが可能のため、お忙しいなどの理由で入院での検査を受けることが難しい方にもお勧めです(入院での検査と一部異なる部分がありますが、基本的には同様の検査内容になります)。
*睡眠検診協会参照(http://www.suiminken.or.jp/)
装着した際のイメージ
睡眠時無呼吸症候群の治療法
治療法は、睡眠時無呼吸症候群を招いている原因、また患者様個々の状態に応じて、下記のような方法のなかから選択されます。
CPAP療法
無呼吸治療の第一選択と言ってよいのが、CPAP療法(Continuous Positive Airway Pressure=経鼻的持続陽圧呼吸療法、通称シーパップ)です。
CPAPとは、鼻に装着したマスクから圧力を加えた空気を送り込むことによって、ある一定の圧力を気道にかけ、気道の閉塞を取り除くことにより無呼吸を防ぐ治療法です。前述の検査において中等症から重症と診断された患者様にとても効果的で、多くの患者様でこの治療を行ったその日からいびきをかかなくなり、朝もすっきりと目覚め、昼間の眠気も軽くなると言われています。またとても重要なポイントとして、無呼吸による脳梗塞や心筋梗塞のリスクも大幅に低減させることが可能であり、睡眠時無呼吸症候群の最も重要な治療法として、欧米や日本で広く普及しています。
睡眠時無呼吸症候群をCPAPで治療した場合と治療しなかった場合の影響を比較した研究データが報告されており、心筋梗塞や狭心症の発生率がCPAP治療を受けていた方では治療していなかった方に比べ有意に減少していました(Lancet 2005;365:1046-53)。つまり無呼吸を治療すると命に関わる状況に陥るリスクを抑えることができるのです。
CPAP療法の役割
睡眠時無呼吸症候群の方は、下記(写真1)のように鼻や口から肺へと空気が通る道が塞がれてしまっています《青色の部分》。
この状態を解消するのがCPAPの役割です。
イメージとしては、CPAPを使用することで写真2のように閉塞されていた部分が解除され、十分な空気が肺に送られるようになります。これにより窒息している状態(無呼吸)が解除され、身体の負担が大幅に軽減されます。
オーラルアプライアンス(マウスピース)
就寝中の顎の位置を少し変えるだけで改善が見込めるような軽症レベルの患者様、もしくは何らかの理由でCPAP治療が困難な方が適応になります。 気道を少しでも広く確保するために、下顎を前方に引っ張ることによって、舌が落ち込むことを防ぎ、上気道の閉塞を防ぎます。なおこの場合のオーラルアプライアンスは無呼吸専用の特殊なものになりますので、作製する際には当院連携の歯科医をご紹介いたします(元々おかかりつけの歯科の先生がご対応可能であれば、当院よりそちらの先生にご作成をお願いすることも可能です)。なお上下一体型のオーラルアプライアンスは主に保険適応となり比較的安価ですが、より細かい調整が可能な上下分離型は保険適応外であることが一般的です。なお、オーラルアプライアンスが完成し、調整が完了したら治療効果判定のために再度簡易検査を行う必要があります。その際には無呼吸の回数が装着前の半分以下になることを目標とします。
外科手術(補助的治療)
鼻づまりがあると無呼吸を悪化させることがあります。そのため慢性副鼻腔炎や鼻茸(注:鼻の粘膜にできる良性腫瘍で、炎症に伴い生じるものです)、鼻中隔彎曲症があり鼻閉を自覚している症例は手術が選択肢になります。ただし、手術単独で無呼吸が改善するものではないため、あくまで補助的な治療とお考えください。
生活習慣の改善
- 肥満の方は、減量のために食事を腹八分目に抑え、適度な運動も心掛けます。
- 寝酒はやめましょう。お酒は筋肉を弛緩させるため、上気道の閉塞をさらに悪化させる可能性があるからです。また飲酒は眠気を誘い一見寝つきを良くするように思えますが、中途覚醒(途中で目が醒める)を増やし睡眠の質を低下させます。
- 睡眠薬のなかにはアルコールの作用と同様に筋弛緩効果を有するタイプのものがありますので、服用にあたっては主治医にご相談ください。
- タバコはいびきや無呼吸を2〜4倍程度に増加させます。またタバコは単独でも脳梗塞や心筋梗塞のリスクになるだけでなく、様々な癌の原因になるため、強く禁煙をお勧めします。
当院では禁煙治療にも注力しています。是非ご相談ください!
中枢性睡眠時無呼吸症候群
中枢性睡眠時無呼吸症候群は通常の(閉塞性)睡眠時無呼吸症候群と異なり、脳からの呼吸のシグナルが減弱して発生するものです。
原因としては脳卒中、慢性心不全、神経変性疾患、頚椎症、脊椎術後、薬剤性(睡眠薬の影響など)によるものが考えられ、より詳しい 精密検査が必要になる場合があります。またいびきを認めず、無呼吸は自覚せず、不眠症を訴えて受診される場合もあります。治療も閉塞性睡眠時無呼吸症候群と異なり、CPAPとはまた別の機器を用いることになります。
睡眠時無呼吸症候群の放置は禁物
睡眠時無呼吸症候群をきちんと治療しないで放置すると、交通事故を増加させるだけでなく(5年間で複数事故を起こすリスクが2.5倍程度に上昇)、高血圧や糖尿病、中性脂肪上昇、善玉コレステロール減少などを招き動脈硬化が進行してしまうとも言われています。その結果、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)、心不全、脳卒中のリスクを上昇させます。さらに、無呼吸は不整脈を起こすリスクを直接的に上昇させるとも言われています。また、認知症のリスクが1.2〜1.8倍上昇するという研究結果や、うつ病の患者さんの20%程度が無呼吸を合併し、CPAP使用前後で抑うつ症状が軽減したというデータもあります。
さらに最近は無呼吸を伴わない、いびきだけでも動脈硬化のリスクになることが指摘されています(いびきの振動によって頸動脈の動脈硬化が進む可能性が指摘)。
またお仕事や家事などの私生活にも何かと悪影響が出がちですので、何も手を打たずに放っておくことは禁物です。ベッドパートナーから、睡眠中の大きないびきや呼吸の一時的停止を指摘されたことは無いでしょうか。そのような方はご自身とご家族にとって大切なお身体を守るために、是非一度ご相談頂ければと思います。
クリニック概要
- クリニック名
- 医療法人社団M-FOREST みやざきRCクリニック
- 診療科目
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- 内科
- 呼吸器内科
- アレルギー科
- 睡眠時無呼吸症候群
※当院では小学生以上の診察とさせていただいております。
- 住所
- 東京都品川区北品川2-23-2 レジデンス品川3F
- アクセス方法
- 京急本線 新馬場駅北口より徒歩2分
TV TOKYO天王洲スタジオより徒歩5分 - 電話
- 03-5460-1159
- ACCESSMAP
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土曜日の時間:
受付時間:午前9:00から12:45
診療時間:午前9:15から12:45
<医師の変更について>
2024年4月より一部医師の変更がございます。
水曜午後は濱邊医師→飯塚医師に変更になります。
木曜日午後は濱邊医師になります。
※土曜日の交代制の医師は、奇数週は糖尿病内科の田中医師、第4週は呼吸器内科の笹田医師になります。